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名古屋地方裁判所 昭和56年(ヨ)1715号 決定 1981年12月24日

申請人 小川馨

<ほか四名>

右申請人ら代理人弁護士 小栗孝夫

同 小栗厚紀

同 榊原章夫

同 石畔重次

同 渥美裕資

被申請人 宮田栄夫

右代理人弁護士 伊藤典男

同 伊藤誠一

同 神田勝吾

被申請人 株式会社岡安工務店

右代表者代表取締役 岡安義昭

右代理人弁護士 水野敏明

主文

被申請人らは、申請人小川馨が被申請人らのために七日以内に金一五〇万円の保証を立てることを条件として、右申請人のために別紙目録(二)記載の土地上に地上三階以上の建築物を築造してはならない。

申請人小川馨の主位的請求並びにその他の申請人らの主位的及び予備的申請は各却下する。

申請費用はこれを一〇分し、その二を申請人らの、その余を被申請人らの負担とする。

理由

一、申請人らの申請の趣旨及び被申請人らの申請の趣旨に対する答弁は別紙記載のとおりであり、申請人らの申請の理由は、右各記載の部分に建物が築造されると受忍限度をこえる日照被害が生ずるというにある。

二、そこで検討すると、本件疎明資料によれば、次の事実が一応認められ、他にこれを覆すに足る疎明はない。

1  被申請人宮田栄夫(以下「被申請人宮田」という)は、別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という)を所有し、同土地上に木造平屋建居宅(貸家)を所有していたが、老朽化し、防犯防災上問題があり、かつ、修理にも多額の費用を要するので、これを取りこわし、ここに鉄筋コンクリート三階建共同住宅(以下「本件建物」という)を建築することとし、昭和五六年一〇月二六日建築確認を得て、その頃本件建物建築工事に着工した。

2  申請人小川馨は本件建物の北側に別紙物件目録(三)記載の建物(以下「A建物」という)を所有し、右建物に家族とともに居住し、申請人小川重一は本件建物の北西側に別紙物件目録(四)記載の建物(以下「B建物」という)を所有し、右建物に東側から順次申請人生駒昭男、同太田益治、同角田正孝が家族とともに居住している。

3  本件建物及びA、B各建物を含む一角は、国道二二号線沿いにあり、その地域指定は準工業地域である。また本件建物は、高さは九・四五メートルで一〇メートルを超えないため、建築基準法及び名古屋市中高層建築指導要綱の日影規制を受けず、公法上は適法な建築である。しかし、本件建物の一画の西側、南側には住宅地域が広がっており、北側に東洋レーヨンの工場、東側に国道二二号線があるため準工業地域とされていると考えられ、実質的には右住宅地域の連続線上にあり、右一画においても大部分が住居用建物であり、付近に三階建の建物は二棟みられるが、いずれもその北側は道路に面している。

4  被申請人宮田は、当初本件建物を全面三階建の予定で建築確認を得たが、申請人らに二階建にするよう要求され、三階部分北西角の一室を削り、本件建物北側境界線から壁芯までの後退距離を二五センチメートルから五〇センチメートルとする設計変更を行なった。右設計変更後の本件建物によるA建物に対する日照被害は、冬至の場合、平均地盤面から四メートルの位置において午前八時から午後四時までの間、その南面主要開口部で約七時間半となり僅かに午前八時から三〇分程度の日照が得られるに過ぎず、この状況は右設計変更による影響を受けていない。これに対し、西側半分を二階建とした場合の日照被害は、右と同じ状況の下で約二時間ほど軽微となり、日昼の午前一一時頃から午後一時頃にかけて日照を得ることができ、また全部二階建とした場合には、更に改善され午前八時から午後一時頃まで日照を受けることができる。

5  他方本件仮処分の申請後である一二月八日を基準として本件建物を西半分二階建に設計変更したとすれば、その総工費は現在建築中の建物に比べ、約五〇万円上回ることになり、被申請人宮田の赤字の解消は一年ないし二年遅れることになると予想される。

6  なお申請人小川馨は、当初一階建であったA建物を昭和五四年になって二階建に増築したばかりであり、これを現在三階建とすることは困難であり、またA建物は敷地面上南側をあけて建てられており、これを北側へ更に移動させてその被害を回避することは困難である。

三  以上の事実によれば、本件建物は公法的規制違反はないものの、現在建築中の建物がそのまま建てられると申請人小川馨は、冬至の前後二、三ヶ月の間は、僅か三〇分程度しか日照を得ることができないばかりでなく、本件建物の壁面による圧迫感を受けるのであり、このことは、本件疎明資料にみられるとおり三階西側一部の設計変更により春分以降の日照が相当得られること、交渉の過程で前記認定のとおりの設計変更を行なったことを考慮しても、右譲歩は冬至前後の日照被害の改善には役立っておらず、冬季における日照という重大な利益の喪失を補うに足りず、また本件建物は共同住宅であり、金銭的利益を目的とする建物であり、被申請人宮田の本件建物に対する投資の回収の遅れが一ないし二年程度であり、設計変更による負担増が総工費の二パーセント程度にとどまるという前提の下においては、現在建築中の本件建物によって被むる被申請人小川馨のA建物における日照被害は受忍限度をこえているものと考えるのが相当である。しかし、本件建物の三階部分西側半分を削除すれば、日昼の二時間程度の日照は回復され、A建物に対する圧迫感も相当程度除去されると考えられ、これを越えて本件建物三階全部を二階建にすることまで求めることはできないというべきである。なお申請人小川重一については、本件建物に居住しておらず、日照被害は受けていないので当然に本件建物の工事差止を求める利益は有せず、またB建物に居住する申請人らについては、受忍限度をこえる損害の発生について、これを認めるに足る疎明はない。

四  よって申請人小川馨の予備的申請については、理由があるものと認め、これを認容し、主位的申請についてはこれを却下することとし、その余の申請人らについては、その申請を却下することとし、申請費用の負担については民訴法九二条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 大塚正之)

<以下省略>

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